データ来歴
データ来歴システムは、ビルドの入力、変換、出力がどこから来たかを記録します。 これは観測用のデータであり、生成されるファイルを変えることはありません。記録が 欠けていても壊れていても、ビルドは失敗しません。「どのソースがこの出力を作ったか」 「2 つのビルドの間で何が変わったか」を調べるために使います。
はじめかた
来歴は既定で有効です。ビルドを実行し、最新の記録を確認します。
pnpm exec riebeckite build
pnpm exec riebeckite inspect provenance
報告を絞り込む場合や、保存済みのビルドと比較する場合は次のようにします。
pnpm exec riebeckite inspect provenance --source notes/hello.md
pnpm exec riebeckite inspect provenance --output blog/hello/index.html
pnpm exec riebeckite inspect provenance --json
pnpm exec riebeckite inspect provenance --compare <build-id>
専用のデータベースやサービスはありません。記録は既存のビルド状態に保存され、 Inspector が読み取ります。
設定
export default defineConfig({
provenance: {
enabled: false,
},
});
enabled の既定値は true です。false にすると、記録、履歴、比較データ、
Inspector の来歴データをすべて省略します。ビルド出力は変わりません。
ビルドが所有するもの
明示的なビルドは、設定とプラグインを解決し、コンテンツを読み、コンテンツと プラグインのパイプラインを実行し、マニフェストと Content Graph を作り、登録済みの アセットとクライアントエントリを出力し、成功した増分状態を記録します。その後、 HonoX 統合が生成済みエントリを使ってアプリケーションをビルドします。
ビルド状態はアプリケーション単位で
.riebeckite/build/content-state.json に保存されます。これは最適化であり、
正しさの源ではありません。状態が欠けている、互換性がない、安全に再利用できない
場合は、初期化またはフルパスを通ります。--full はそのパスを明示的に要求します。
ビルド状態は buildManifest() 完了後、HonoX/SSG 実行前に確定されます。SSG ContentManager は commitBuildState:false を渡さないため、その後の SSG や出力で失敗しても新しい状態が残り込むことがあります。
状態は成功したビルドの後だけ保存されるため、失敗時は以前の有効な状態が残ります。
来歴の記録
正常に完了したビルドでは、バージョン付きの来歴スナップショットもビルド状態に保存します。来歴は、既存の Content Graph、出力依存関係、出力変更理由、実行時の計測値を利用して作ります。別の依存関係グラフは作りません。記録する内容は次のとおりです。
- 相対パスとフィンガープリント
- コンテンツ処理
- 計測済みのプラグインフックの順序と時間
- Derived View のキャッシュ状態
- 生成・再利用・削除された出力記述子
既存の依存関係記録で関係を証明できないフックの効果は、不透明なままです。キャッシュヒットは実行ではなく再利用として表示します。
HonoX による SSG が完了すると、最終出力の実バイト列から算出した SHA-256 フィンガープリントも追加します。Core の出力記述子に対応しない成果物は、明示的に unmapped とします。Core だけのビルドでは、最終バイト列を記録したとは扱いません。
来歴は観測用です。状態が無効だったり、欠けていたり、書き込めなかったりしても、出力の生成には影響しません。その場合は通常のビルドへフォールバックします。Markdown 本文、絶対パス、設定内の秘密情報は保存しません。
記録の根拠は measured、deterministic、unobservable で区別します。Derived View のキャッシュヒットは再利用として扱います。実行されたフックは、既存の依存関係データで入出力が証明されない限り opaque のままです。Inspector は保存済みスナップショットと private エンドポイントだけを読み取ります。コンテンツの再ビルド、Derived View の解決、ビルド状態の変更は行いません。
API リファレンス
公開 API は @riebeckite/core からエクスポートされます。独自のビルド統合から
利用できますが、通常の CLI 経路では自動的に呼ばれます。
import {
appendProvenanceHistory,
attachProvenanceArtifacts,
compareBuildProvenance,
createBuildProvenance,
MAX_PROVENANCE_HISTORY,
PROVENANCE_VERSION,
} from "@riebeckite/core";
createBuildProvenance(input: {
plan: ContentBuildPlan;
manifest: ContentManifest;
outputChanges: OutputChangeSet;
pluginHooks: readonly PluginHookExecution[];
derivedViews: readonly DerivedViewInspection[];
processed: ReadonlyMap<string, number>;
}): BuildProvenance
createBuildProvenance は、現在の計画、マニフェスト、出力変更、計測済みの
プラグインフック、Derived View の検査結果、コンテンツ処理時間から
BuildProvenance を作ります。コンテンツを読み直したり、2 つ目の依存関係グラフを
計算したりはしません。
compareBuildProvenance(
from: BuildProvenance,
to: BuildProvenance,
): BuildProvenanceComparison
比較結果には、ソース、変換、出力、成果物ごとの added、removed、changed の
ID が入ります。保持されていない build ID は再構成しません。Inspector は比較
できないことを明示します。
attachProvenanceArtifacts(
provenance: BuildProvenance,
input: {
fingerprints: Readonly<Record<string, string>>;
cacheHits: ReadonlySet<string>;
},
): BuildProvenance
attachProvenanceArtifacts は HonoX の SSG 後に、最終出力の
バイト列のフィンガープリントとキャッシュ状態を追加します。Core の出力記述子に
対応しない成果物は unmapped になります。
appendProvenanceHistory(
previous: readonly BuildProvenance[],
provenance: BuildProvenance,
): readonly BuildProvenance[]
結果は最新の記録と、最大 MAX_PROVENANCE_HISTORY(10)件の履歴を保持します。
PROVENANCE_VERSION は各記録に保存されるスキーマバージョンです。
記録の型は BuildProvenance、ProvenanceSource、ProvenanceTransform、
ProvenanceOutput、ProvenanceArtifact、BuildProvenanceComparison です。
主なフィールドは次のとおりです。
| 型 | フィールド |
|---|---|
BuildProvenance |
version、buildId、sources、transforms、outputs、任意の artifacts |
ProvenanceSource |
id、contentId、path、fingerprint、type、visibility、evidence |
ProvenanceTransform |
id、type、producer、inputs、outputs、status、evidence、任意の sequence、hook、effect、durationMs |
ProvenanceOutput |
id、path、kind、producer、dependencies、status、evidence、任意の recomputeReason |
ProvenanceArtifact |
id、path、fingerprint、descriptor、cache、evidence |
保存と保持
最新の記録と履歴は .riebeckite/build/content-state.json の provenance と
provenanceHistory フィールドに保存されます。ビルド状態は成功したビルドの後だけ
書き込まれるため、失敗したビルドが以前の記録を置き換えることはありません。
来歴は意図的に独立した成果物にしていません。
- コンテンツ本文、絶対パス、環境変数の値、秘密情報を含みません。
- ビルド時の状態であり、
dist/へコピーされません。 - 最新 10 件だけを保持し、それより古い比較対象は利用できなくなります。
-
.riebeckite/build/content-state.jsonを削除すると来歴も消え、次のビルドは 以前の記録なしで実行されます。 - Inspector のエンドポイントは loopback 専用で、セッションごとのトークンを 要求します。loopback 以外の binding、host、origin、peer、forwarder 経由の リクエストは拒否されます。
統合
-
派生データは
DerivedViewInspectionを提供します。キャッシュ ヒットはreusedとして記録され、executedにはなりません。子 View の バージョンが変わると、依存関係のフィンガープリントが変わります。 - ビルドシステムは、来歴が読む計画、出力変更セット、ビルド状態、 増分再利用の判断を所有します。
- コンテンツシステムはソースパス、フィンガープリント、公開 状態を提供します。
- HonoX は SSG 後に最終出力のバイト列フィンガープリントと キャッシュヒットを提供します。
- 公開ワークフローはデプロイ判断に独自の公開 フィンガープリントを使います。来歴は診断情報であり、承認やデプロイのゲートに 使ってはいけません。
-
CLI は
inspect provenanceを公開し、 Inspector は開発時に同じ記録を表示します。
直近 10 件のスナップショットを保存し、比較できます。riebeckite inspect provenance で要約を確認し、riebeckite inspect provenance --json で保存済みの機械可読な記録を出力します。--source <relative-path> と --output <path> は最新のスナップショットを絞り込みます。--compare <build-id> を付けると、保存済みのスナップショットとの差分も出力します。指定した build id が履歴にない場合は、比較できないことを JSON に明示します。
開発 Inspector の Provenance タブと /__riebeckite/inspector/provenance エンドポイントは、認証済みの private inspector server 経由で、最新の読み取り専用スナップショットを公開します。記録を省略するには provenance: { enabled: false } を設定します。
来歴計測のコスト
scripts/benchmark_large_vault.mjs は RIEBECKITE_BENCH_PROVENANCE=off|on を受け付け、複数回実行した wall-clock 時間の中央値を出力します。測定条件は、1,000 ノートの Vault、Windows (win32)、Node v24.22.0、シナリオごとに 5 回、既定のコンテンツキャッシュと出力キャッシュを有効にした状態です。結果は次のとおりでした。
| シナリオ | 来歴 off(中央値、最小–最大) | 来歴 on(中央値、最小–最大) |
|---|---|---|
| コールドビルド | 2,358 ms(2,306–3,119) | 2,422 ms(2,383–2,596) |
| 変更なしのウォームビルド | 584 ms(531–933) | 747 ms(627–2,251) |
| 独立したノート1件の編集 | 646 ms(585–670) | 741 ms(680–1,035) |
この値は今回のマシンとコンテンツ構成での結果であり、性能を保証するものではありません。来歴の記録は、Manifest と出力計画が確定した後に発生する観測コストです。無効にすると、記録・履歴・状態のシリアライズだけが省略され、ビルド出力は変わりません。
エラー処理
来歴はフェイルオープンです。
- 記録中に例外が起きると、Core は警告を出して来歴なしでビルドを続けます。
- 保存された記録が壊れている、未対応のバージョンである、期待した形と一致しない 場合、ビルド状態は利用不可として扱われ、次のビルドは通常のフルパスを通ります。
- 状態を書き込めなくてもビルドは完了し、以前の有効な状態が残ります。
-
inspect provenanceは、有効な状態や記録がない場合に理由付きでunavailableを返します。状態を作ったりビルドを実行したりはしません。 -
保持されていない build ID を
--compareに渡すと、比較を作らず JSON にcomparisonUnavailableを返します。
セキュリティと信頼境界
来歴は信頼されたビルドコードが出力する診断情報です。セキュリティ制御ではなく、 コンテンツを公開してよいかの判断に使ってはいけません。
- ソースパスは相対パスに正規化されます。ワークスペースの絶対パスは記録しません。
- コンテンツ本文、レンダリング済み HTML、設定の秘密情報、環境変数の値、 認証情報は記録しません。
-
プラグインフックは、既存の依存関係記録が入出力を証明しない限り
opaqueの 効果として報告されます。任意のプラグインコードを内部調査することはありません。 - 開発用 Inspector のエンドポイントは loopback 専用で、セッションごとのトークンを 要求します。来歴は本番出力に含まれません。
-
来歴にはファイル名とビルド構造が含まれ得ます。
.riebeckite/build/content-state.jsonは非公開のビルド状態として扱ってください。
制約
- 来歴が説明できるのは成功したビルドです。完了しなかったビルドは説明できません。
- 履歴は 10 件までです。それより古い比較は利用できません。
- 依存関係グラフで証明できないフックの効果は
opaqueのままです。 - Core だけのビルドでは最終出力のバイト列フィンガープリントを記録しません。 成果物は HonoX の SSG 後に追加されます。
- 来歴は公開計画、承認ゲート、成果物の検証を置き換えません。
- キャッシュヒットは値が再利用されたことを意味します。生成コードが今回のビルドで 実行された証拠ではありません。
トラブルシューティング
-
inspect provenanceが「no valid build state」を返す: 先にビルドを成功させて ください。Inspector はビルドしません。 -
「provenance was not recorded」: 状態はありますが、このビルドが
provenance.enabled: falseで実行されたか、記録に失敗しています。ビルドの 警告を確認してください。 -
特定のソースや出力が表示されない:
--sourceと--outputは、渡した 相対パスと完全一致するものだけを絞り込みます。 -
比較が利用できない:
--compareの build ID が保持されている 10 件より古いか、 ビルド状態が削除されています。 -
プラグインフックが
opaqueに見える: 出力依存関係が関係を証明していなければ 想定どおりです。時間から依存関係を推測しないでください。 - 失敗したビルドの後に来歴が古く見える: 状態は成功時だけ置き換わります。 最後に成功した記録が意図的に残っています。
ビルドの流れ
ビルドを実行すると、Riebeckite はまず設定と使用するプラグインを読み込みます。
次に、コンテンツソースから Markdown などのコンテンツを読み込み、設定されたプラグインによる変換を行います。
この段階では、Markdown を HTML に変換するだけでなく、次の情報も決定します。
- どのコンテンツを公開するか
- 各ページをどの URL で公開するか
- ページ同士がどのようにリンクしているか
- どの画像やファイルが必要か
- プラグインが追加するページやファイル
これらの情報をもとに、サイト全体のページ情報、リンク関係、必要なアセットを生成します。
最後に HonoX が、生成された情報を使って Web サイト全体をビルドします。